歴代シリーズを通じてジョン・ウィックは様々な銃を手にして襲い掛かる無数の敵を倒してきた。第1作目ではカスタムコンプを装着したH&K P30L、第2作目のチャプター2ではTTI(タラン・タクティカル・イノベーションズ)が新開発したグロック34コンバットマスターが登場、そして第3作のパラベラムでは同じくTTIがSTIと共同開発し2011を進化させたTTI/STI 2011コンバットマスターが登場。ジョン・ウィックのハンドガンはシリーズを重ねるごとにパワーアップしていった。そして今回ジョン・ウィックの新たなステージとなる「ジョン・ウィック:コンセクエンス」にも最強の殺し屋に相応しい新たな銃器達が登場し最高のガンアクションを披露する。ではその主だった銃器たちを見てみよう。
Text by Yasunai Akita
TTI(Taran Tactical Innovations)のオーナーにして3-Gun競技の全米ナショナルチャンピオン。「ジョン・ウィック」シリーズの射撃トレーナー(タクティカルウエポンズトレーナー)、そして銃器やガンアクションのアドバイザーを務める人物。チャプター2の製作からシリーズに参加し、ジョン・ウィックが手にするカスタムガンをデザインし製品化してきた。プライベートでもキアヌ・リーブスと親交が深く、本作の製作中にキアヌからフランスのロケに招待され撮影に参加する。過去のハリウッド映画では銃の解説シーンのセリフに間違った情報が飛び出ることは珍しくなく、それを避けたかったチャド監督の依頼で、今回もタランがボワリーキングのセリフを書いている(実際にはもっと詳細な説明だったが、このキャラを演じるローレンス・フィッシュバーンとの打ち合わせで少し短くまとめられ現在のものになった)。(Special thanks to Taran Tactical Innovations)
ヨーロッパの撮影中にキアヌ・リーブスから招待されてフランスのロケに参加したタラン・バトラー。キアヌは密かにタランの名前入りのディレクターチェアを用意してくれていてロケ現場でプレゼントされたという。
映画で使用されたピットヴァイパーを撃つタラン。空砲弾の激しい火花がコンプからも派手に飛び出す。
最終決戦前にバワリーキングから受け取りプライマリーウエポンとして手にする本作を代表するジョン・ウィックの新型ハンドガンが、タランが第4作目の為に新たにデザインしたピットヴァイパー(製品名はTTI JW4 Pit Viper)だ。クサリヘビやマムシを意味するその名前の通り、強力な殺傷能力を秘めた最新鋭のハンドガンであり、前作「ジョン・ウィック:パラベラム」に登場したTTI/STI 2011コンバットマスターの発展モデルだ。大きな特徴は銃身長を5.4インチから4.25インチへと短縮しつつ、そこにコンプ(コンペンセイター)を組み込み、実際の銃身長をガバメントの標準的な5インチバレルにした事で前作よりも携帯しやすいサイズにまとめたことだ。さらに前作よりも軽量化されているがコンプの効果で反動による銃の跳ね上がりは抑えられている為、大変に撃ちやすく撮影前の実弾射撃訓練でキアヌがその撃ちやすさに驚いて「これはズルい銃だ」と冗談まじりでコメントするほどだ。
パーツの加工精度が大変に高く手作業ですり合わせ組まれたハイエンドカスタムガンであり、その市販モデルの価格は$6999.99(劇場公開時の為替レートで100万円弱)。バレルやスライドはかなりタイトだが滑らかに作動し命中精度は大変に優れている。エクストリームエンジニアリング社製のトリガーパーツで2ポンド(約900g)の鋭く切れるトリガー、ファイバーオプティックフロントサイトと微調整可能なリアサイトは衝撃を受けるとズレたり故障する可能性がある為、スライドの中に沈み込ませるように内蔵した「ゴーストプロファイル」仕様。アンビセイフティはさらに大型化し操作性が向上。携帯性も良くリロードをサポートするTTIキャリーマグウェル、126mmマガジンにTTIベースパッドを付けて21発装填可能。ブラックDLCコーティングで耐腐食性が高く同時に美しく仕上げられている。そのモデル名の所以となる内蔵された隠し武器(ファング)が備わっている。その活躍は劇中でご覧頂こう。
ファイバーオプティックフロントサイトが装着されたコンプ。これによりピットヴァイパーは撃ちやすいだけでなく連射でも高い集弾性能を発揮する。ちなみに前作では通常弾よりはるかに強力な9mmメジャーを使用したが、今回の9mm弾の設定は?実は撮影したがカットされてしまったシーンがあり、そこではバワリ―キングが9mmメジャー弾に匹敵するほど強力なウインチェスター社の127グレイン弾頭+P+弾をジョンに紹介し渡している。ということで本作でもジョン・ウィックはピットヴァイパーで強力な9mm弾を放ち戦闘を繰り広げているのだ。
ピットヴァイパーの姉妹モデルのサンドヴァイパー。主な仕様はピットヴァイパーと同じだが、フロント/リアサイトはなく、スライドに直接トリジコンRMR/SROをマウントする為の加工が施されたドットサイト専用設計になっており、全体をコヨーテブロンズDLCコーティングされている。こちらが先に発表されたのでピットヴァイパーが派生モデルと勘違いされたがTTIは映画配給会社との間に守秘義務契約があった為、本作の予告編が解禁されるまで発表できなかったという事情があった。そのため映画とは関係のないこちらが先にリリースされた。
劇中でバワリ―キングが銃について解説するシーンのセリフにある「2ポンドエクストリームトリガー」とは、エクストリームエンジニアリング社というメーカーのカスタムトリガーパーツ(ハンマー、シア、ディスコネクター)でチューンされた2ポンド(約906g)の重さのトリガーという意味だ。そして両面にレバーを備えるアンビセイフティレバーを備えており前作のTTI/STI2011コンバットマスターよりもレバーが大型化して操作性がアップしている。
STI社製の126mmチューブにTTI社製のベースパッドなどを組み込み9mmx19弾が21発装填できる。より長いマガジンで装弾数をアップする事も勿論可能だが背広の下でキャリーする事を考えて、あえてこのサイズが選ばれた。
フレームは上部分がスチール製で握るグリップ部分がポリマー製の2011系のモジュラーフレームだ。
通常分解をしたところだ。
これが実際に映画撮影で使用されたピットヴァイパー。製品版と殆ど同じだがごく小さな違いとしてはスライド先端の下側が突き出しており、その部分がコンプの真下に入り込むデザインになっている。(Photo courtesy of Independent Studio Services)
チャプター2のローマのコンチネンタルホテルのソムリエから勧められ使用するグロック34コンバットマスターの発展モデル。「日常のキャリーガンとしてジョン・ウィックが好むのは軽量なグロックである」とするタランの意向により、今回も冒頭シーンから使用し、これを携行して世界を駆け巡っている。以前のモデルとの違いはそのベースモデルがGen 3(第3世代)からGen 5(第5世代)型のG34 Gen5 MOSに変更されている点で、アンビ操作のスライドキャッチ、スリムになったグリップ、右側からの操作にも切り替え可能な大型化されたマガジンキャッチ、ドットサイトをスライド後方にマウントできるMOS(モジュラーオプティックシステム)など、その改良点が活かされている。さらに今回はアンビのアクセラレーターカット、小型化されたTTIキャリーマグウェル、トリガーの引き味を大幅に向上させるティムニー社アルファコンペティショントリガーなどが追加され、表面処理もブラックDLCコートにするなどの改良が施されている。5発追加でき合計23発を装填可能にするTTIのベースパッドのTTIロゴは目立つように前方に移されている。
前2作でTTIのカスタムベネリ(M2とM4)ショットガンを駆使したジョンが今回敵から奪って追手たちを駆逐するのに使用するショットガンが、このTTI Dracarys Gen-12だ。10.5インチバレルで取り回しに優れ10連マガジンで戦闘能力が大幅に強化されている。ベースとなったジェネシスアームズ社のGen-12をTTIがバトルアームズ社やBCM社の各種パーツでカスタマイズしたもので、さらに映画では特殊な発火性化合物を仕込んだドラゴンズブレス弾によって、ドラゴンが口から吐き出す火炎のごとく強烈な火花で敵を焼きつくしながら殲滅するジョン・ウィックのガンアクションは本作の戦闘シーンの大きな見どころの1つとなっている。ちなみにモデル名の「Dracarys(ドラカリス)」は人気ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」でドラゴンに炎を吐かせる際のセリフが由来になっている。
マウントされているEOTECH EXPS3-1フォログラフィックサイトはTTI社が独占販売するものだ。チャージングハンドルは両面でどちらからも操作できる。バトルアームズ社製プロアンビセイフティレバーとローアーパーツキット、BCMガンファイターグリップ、QDエンドプレートとQDキーモッドスリングポイント、ユニボディストックを採用。銃口部のマズルデバイスは簡単に交換可能でJKアーマメントの12番ゲージ用サプレッサーを装着できる。ハイパータッチ社のジェネシス専用トリガーは約1.1㎏に調整されている。表面処理はディスラプティヴグレーセラコート仕上げ。
作中では大阪コンチネンタルの戦闘シーンを中心に敵味方が入り混じってグロック17、グロック34、ロングタイプのグロック17Lが登場する。大半がGen 3タイプで(Gen5のグロック17も僅かに含まれる)TTIがカスタムのサイトに交換するなど最低限のカスタマイズも行っている。ケインとの戦闘中に敵のG17Lを使用する(ひと際長いグロックなので一目瞭然)。最後の戦闘ではジョンも敵のウェポンライトが装着されたグロックやサプレッサー付きのG17を使いピットヴァイパーの残弾を温存しつつ戦っている。
ジョン・ウィックの旧友で盲目の殺し屋ケインが使用するのがSIG SAUER P365のバリエーションでドロウの際に衣服の引っ掛かりを極力無くすためにFTブルズアイナイトサイトを備えたSASのスライドとP365XLのフレームを組み合わせている。「盲目なのでサイトは要らない」という考えから、このような組み合わせでデザインされた。これにリカバータクティカル社のレイルアダプターを使ってストライクインダストリーズ社のマスドライバーコンプを加工し装着。劇中ではドニー・イェンの軽快なアクションと共に、指をチャンバーに突っ込んで弾切れを確認するなど、他にも盲目キャラならではユニークなガンアクションが見どころだ。(Photo courtesy of Independent Studio Services)
ジョン・ウィックを付け狙うトラッカーはチャド・スタエルスキ監督の意向で現代版カウボーイのテイストを与えたキャラクターで使用銃にもそれがよく表れている。主に使用するのがマッドピッグカスタムズによりカスタマイズされた44マグナムのマーリンモデル1894ダークというレバーアクションカービンだ。2分割できるテイクダウン機能を追加し、ミッドウエストインダストリーズのハンドガード、サイレンサーコのマズルブレーキを装着している。銃器担当のロック氏から製作依頼を受けたのが2020年のコロナ過でパーツの入手が滞り製作には困難な時期であった。1挺が試作過程で組み上げられたものでロック氏はいくつか変更を依頼した。2挺が1/4程回転させて分割できるタイプ、2挺がネジ式で分解できるタイプ、8挺が分解機能を持たないタイプの合計13挺が製作された。14.5インチバレルにサイレンサーコのASRマズルブレーキを装着、市販最低バレル長16インチの長さになるようにして溶接で固定している。ミッドウエストインダストリーのハンドガードにXS Sights社が特注したフルレングスのトップレールを装着している。表面仕上げはアーマーブラックとエリートブラックの2種類のセラコートでツートンにしている。(Photo courtesy of Mad Pig Customs)
トラッカーがプレートキャリアーバックパックの中に仕込んでいるサイドアームの1つが80パーセントアームズから販売されているGST-9フレームにステートメントディフェンスのスライドを組み合わせたグロック19サイズのグロックタイプのハンドガンだ。(Photo courtesy of Movie Prop House)
ジョン・ウィックの執拗に追い続けるChidiが使用するのはエージェンシーアームズのG17サイズモデルにコンプとトリジコンRMRをマウントしたモデル。大阪コンチネンタルでジョンも一瞬だが同社のカスタムグロックを使用している。写真は参考までにエージェンシーアームズEXT2パッケージだ。(Photo courtesy of Agency Arms)
ベルリンのナイトクラブでジョンが一瞬セキュリティから奪い使用するのがCZ社の人気ポリマーフレームピストルのCZ P10-C。前作でニューヨークコンチネンタルの武器庫にもP-09と共に壁にかかっている。(Photo courtesy of CZUB)
グラモン伯爵がウィンストンとシャロンと面会するシーンで使用する小型ピストル。S&W社の大ヒット商品、M&Pシールドの第2世代型M2.0の4インチバレルで、さらにS&W社のカスタムショップ、パフォーマンスセンターによって改良を施している。ファイバーオプティックフロントサイトに交換されトリガーもチューンされている。(Photo courtesy of Smith & Wesson)
もう1つのトラッカーのサイドアームがS&Wモデル686パフォーマンスセンターエディションにマットブラックセラコート(シリンダーのみグロスブラック)仕上げにしたモデル。コルトSAAをイメージにグリップメーカーで知られるホーグが特別にあしらえたウッドグリップを装着している。写真はパフォーマンスセンターのプロシリーズモデル686 SSR。(Photo courtesy of Smith & Wesson)
スコット・アドキンス演じるキーラが使用する大型リボルバーがS&W社の最強クラス、モデル500の4インチバレル。S&W最大サイズのXフレームなので全長約260mmに対して重量が約1,570gもある。交換可能なコンプを備え、500マグナムの高威力によりこの短いバレルでも銃口エネルギーは2,000fpsを超えるパワーがある。(Photo courtesy of Smith & Wesson)
フランスでジョン・ウィックを追うハンター達が使用するのは、トンプソンサブマシンガンのコピー製品を現在も製造・販売するオートオードナンス社のカスタムモデルだ。M1をベースに上面に長いピカティニーレール、M-LOKハンドガード、M4タイプのコラプシブルストック、光学サイトとフラッシュライトを追加し近代化している。写真は製品版で近いと思われるタクティカルモデル。(Photo courtesy of Auto-Ordnance)
主席連合が定めた決闘で用いられるのはアメリカの人気中折れ式単発ハンドガン、トンプソン/センターアームズ(T/C)Encoreだ。連射は出来ない反面、バレル交換で各種多様な弾を発射する事が出来る為、狩猟や競技などアメリカでは長年一定の人気を保っている。劇中で登場するEncoreは強力な大口径弾に対応できるようにベストセラー商品のコンテンダーシリーズを強化改良モデルで、彫金が施されたペアが木製ケースに収まり登場する。口径は44マグナムで使用弾頭はシルバーチップホローポイントという設定だ。写真は上位モデルのEncoreプロハンターだ。(Photo courtesy of Thompson/Center Arms)
大阪コンチネンタルに押し寄せる主席連合の特殊部隊たちが使用するのはスパイクスタクティカル社のビレットSTコンプレッサー。フラッシュライトとドットサイトを装着しており劇中ではジョン・ウィックとケイン双方も使用する。写真は製品版で8.1インチバレルより少し長いハンドガード内にサプレッサーを収めて装着するデザインの小型AR-15系カービンとして設計されている。7075T6アルミ合金製を切削加工したGen2ローアーレシーバーを持ち、ガスチューブに銅線のヒートシンクを内蔵するなどガス作動システムのパーツも一部を専用設計としている。9インチのバーレールを持つヒートシールド内蔵ハンドガード、軽量ボルトキャリア、アンビセイフティ、ニッケルボロン処理したトリガーパーツ、スティップル加工したグリップなどの特徴を持つ。(Photo courtesy of Spike’s Tactical)
ジョン・ウィックがベルリンの教会に赴く場面で所持している武器を全て手渡すシーンがあり、背広の下からコルトガバメントやワルサーP38、そして「クールなリボルバーね」と言われてしまうウエブリーMK VIが登場する。また教会で祭司がジョン・ウィックに向けて発射する水平2連のソードオフショットガンなど様々な銃が本作では登場する。
Text by Yasunai Akita